国宝消滅 デービット・アトキンソン
 この本は東洋経済新報社から2016年3月発行。
 この本は東洋経済新報社から2016年3月発行。
 著者「デービット・アトキンソン」氏は元ゴールドマンサックス金融調査室長、現在は文化財の修復では最大手「小西美術工藝社」社長という異色の経歴の持ち主である。
 
 著者の生まれはイギリス。
 イギリスは伝統文化保存施策の中断で、「伝統技術」が一度途絶えた国なのだという。
 そんな失敗の轍を日本には踏んでほしくないという想いがこの本を書いた強い動機になっているようである。
 
 私が共感したのは次の2点。
 
 第1点は、日本の「伝統文化」を本気で普及させようと思うなら、その「伝統文化」は「本物」であるべきという主張。
 今や「呉服」も「漆」も原材料のほとんどが中国産。製作まで海外でというのも珍しくないという。
 売るときだけ「日本の伝統文化」を語っているが、それって本物?どこかおかしくない?
 
 第2点は、日本の「伝統文化」を普及させようと思ったら、「モノ」ではなく「コト」を普及させよという主張。(アトキンソンさん曰、「器つくって魂いれず」・・・)
 著者はそれを「建築文化」と「人間文化」と表現している。
 国宝の案内パンフレットには建築物の素材や工法等の解説はあるが、この建築物が何のために建造され、誰がどのような目的でどのような営みがなされてきたか・・・。そっちの方がよっぽど大切でしょ。
 
 この本を読み終わったら、偶然にも、浄法寺漆産業の松沢社長が来社。
 ゆい工房のネームプレートは漆塗りで、松沢社長のところで作成してもらっている。
 
 そこで、松沢社長にこの本のことを聞いたら、著者の「デービット・アトキンソン」さんとは浄法寺でなんどもお会いになっているとのこと。本物の漆の生産現場を視察されいたく感銘を受けられていたそうである。
 
 そう考えると、地元の人は気づいていないけど、岩手は日本の伝統文化保存の最先端をいっている大切な地域ってことだよね。
