木と遊ぶ木工作家「和山忠吉」その2
木工作家の和山忠吉さんの家具は素晴らしい。椅子も机もベッドも。しかし、最も和山さんらしい作品となると、もしかするとこうした実用の家具ではないのかもしれない。というのは、ユーモア精神をこよなく愛する氏は、実に不思議、いや奇怪とも呼んでも言い過ぎでもないような変わったものを木で作る。この「木で作る」ということが、和山さんらしさでもる。
たとえば、近年、和山さんが作ったもののひとつにサッカーボールがある。サッカーボールとは五角形と六角形の皮を張り合わせて球体とするものだが、和山さんは同じように五角形と六角形の木片(薄い板で貼り合わせるのではなく、ブロック状のパーツを精巧に組み合わせる)で球体を作ってみせた。一般的にいって、こういうものを作る場合は、コンピューターの力を借りて、パーツを計算から割り出していくという方法がとられる。
しかし、和山さんは、頭の中に描いたイメージを基にパーツ作り上げていく。その作業の過程には当然、電子頭脳の解析など登場する余地はない。そういう意味では、氏の頭の中はどうなっているのか、凡人では理解しきれないというのが、傍から見ている者の正直な感想である。
こうしたサッカーボールのほか、ひたすらブロック状の角材をつなぎ合わせて、東北とイタリアをつなげた巨大なテーブルをこしらえたり、星型の引き出し(引き出しなのだが、モノが入らない)を作ってみたりと、はっきり言ってあまり使えそうにない家具をせっせと作っている。そんな氏はまるで木と無邪気に遊んでいるようだ。
また、和山さんらしいなと思えるのは、こうしたユニークなものを作る際においても、接着には自然素材である膠を使い、また、間伐材利用を考え、杉の小径木材を選択する、塗装については自然塗料といった具合に、木工作家としての信念を貫いている点である。さらには、「木が可哀想じゃない。木の細胞がつぶれちゃうわけだし」と曲加工をしないのも和山さんらしい。そして、こうしたこだわりを絶対に曲げない姿勢。本人はどう思っているかわからないが、超が付くほど頑固者である。ただ、木に向かうことに夢中であることだけはよくわかる。
最近、和山さんから、また面白いものを作っているという話を伺った。何でも、球体の住み家なのだそうだ。一体、どんな生き物をそこに住まわせるのか、あるいは自らが住むのかは知らないが、また不思議なものになることだけは間違いないのだろう。氏の発想からすると、木で作った球体を空に打ち上げ、「宇宙船か人工衛星としてはどうかな」なんてことも言い出しかねないような気がする。そうなるとそこに暮らすのは宇宙人か、あるいはやはり和山さん自身なのか。いずれにせよ、どのようなものができるのか楽しみでしょうがない。
※おりつめ木工 和山忠吉 岩手県雫石町尾明神赤淵74-12 TEL019-692-6220