木と遊ぶ木工作家「和山忠吉」その1
雫石に和山忠吉さんという木工作家がいる。知り合いの同級生ということで、確か2年ほど前に初めてお会いし、最近では木工作品の写真を撮らせてもらっている。
木工作家としての和山さんの特徴は、まず木を扱う技術の高さだろう。それを証明するのが、1979年の第25回技能五輪国際大会での技能賞受賞で、とにかく若い頃から技術の高さは抜きん出ていた。和山さんは現在50歳。世界で評価された高い技術はさらに磨きがかけられ、また円熟味も増しているようだ。
しかし、この技術の高さは、和山さんにとって、自らが作りたいものを作るための基礎、道具でしかないと、その作品を見るたびに思う。
和山さんの作品をすべて知るわけではないが、とくに椅子のシリーズは和山さんのこだわりの世界観をよく表れている。
たとえば、代表作のひとつに「ネマール」と呼ばれるスツールがある。アールを描いた座面の座り心地の良さ、スタッキング可能なデザインの妙がこのスツールの特徴だ。また、全体としては非常にシンプルで洗練されたデザインなので、北欧の家具のような高いデザイン性を覚える人もいるだろう。シトカ・スプルースという白さが際立つ素材を使っていることも、スカンジナビアデザインを思い起こさせる要因かもしれない。
しかし、こうしたデザインの素晴らしさやスタッキングといった用途の広がりがこのスツールの最大の持ち味でもない。
一番の持ち味は、和山さんに備わっている、「木という素材への親近感から生まれるカタチ」だと僕は思っている。
それはネマールの脚ひとつにも現れている。一見しただけでは、単なるU字にしか見えない脚だが、じっくり観察し、また手で触ってみると、それが簡単に定規で引いた線ではないことがわかるだろう。脚の開き具合の角度の妙は、「このかたちしかない」という説得力にあふれている。
和山さんに言わせると「直角となる部分がないから作るのが大変でさあ。困っちゃうんだよね」ということになるのだが、そういう形にたどり着いたのは、和山さんが持つ「木のイメージ」を具体化した結果なのだろうと、僕は考えている。
地面から生えている木には直線と呼べるものは存在しない。「まっすぐな木」という言葉自体がそもそも矛盾していて、木はすべて、フリーハンドで描いたかのような柔らかな線で構成されている。きっと、和山さんの頭のなかにはそうした木のカタチが宿っているのだろう。だからこそ、氏の手がける作品は、洗練した気配を保ちながらも不思議なほど柔軟なのだ。そして、同じ木が二本とないように、オリジナリティーにあふれている。
とはいえ、家具職人としては注文が来れば、同じ形を再現しなくてはならない。和山さんの卓越した技術が最も生きるのはきっとそのときなのだろう。まさに孤高のこだわりとも言える独自の製作スタイルで、どのようなかたちであっても、驚くほど精巧に再現していくのである。
ちょっと余談になるが、ネマールのカタチを再現することについて面白いエピソードがある。和山さんは以前、ネマールの脚の加工を木工所に外注しようとしたことがあった。まずはサンプルを送り、これと同じものをと依頼したのだが、機械を使った量産スタイルでは困難であることを告げられたらしい。以来、和山さんは外注をあきらめ、こつこつと手作業の日々を送っている