古民家再生ものがたり

2016/05/29(日) 本・映画のご紹介

「古民家再生ものがたり」は織幡廣信著 出版は晶文社 初版2005年である。

 織幡さんは民家の再生における方法論を確立した業績で1990年に日本建築学会賞を受賞。文字通り、古民家再生の仕事では押しも押されぬ第一人者である。

「過去から未来へ・・・ひと続きの時空に暮らす。」というキャッチコピーが印象的。ご先祖様が大切に守り育んで来た「住まい」という有形無形の資産。その想いを今に受け継ぎ、後世に継承していく技が古民家再生という仕事である。そんな現場での仕事にかける息遣いがみごとに伝わってくる。

実は、古民家再生は建築の分野でも最も難しい仕事である。
それは、技術的な難易度もさることながら、プロジェクトとして成立させることの困難さの中にある。

第一は、設計事務所主導のプロジェクトは頓挫するリスクが高い。そもそも古民家再生事業は、建築に着手する前に設計図書を完成させることはできない。構造材がその後の不完全な改修工事によって隠されている事がほとんどだからだ。

他方、工務店主導のプロジェクトの場合は、これまた発注者とのトラブルに発展するリスクが高い。全てを棟梁の匠の技頼りですすめる工事は、着地点が明確でなく、行き当たりばったりで施主が不安になる。請負契約上の追加が発生するリスクもある。

結論として、古民家再生に代表されるリノベーションは、工事途中でも現場に足繁く通い設計図書を通じて施主に夢を描いて見せる熱意と、伝統文化を保存継承する事の価値を理解する工務店との共同作業プロジェクトでしか成立しない。

織幡さんの仕事も、設計事務所と工務店を同時に運営する事業形態だからこそ可能であった事を理解しなければならない。

施主様の理解が何より大切なのであるが、経済的損得を動機に「古民家再生」事業に取り組むのは、誰も幸せにしないプロジェクトになる。この事を建築に携わる者は自戒しなければならないことをこの本は示している。

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