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社長エッセイ 設計の現場から Today's ゆい工房 ゆい工房ライブラリー 暮らしの手ざわり
暮らしの手ざわり 「暮らし」とは、「住まい」とは、自分の大好きな世界をひとつづつ積み上げていく行為。日々の暮らしをよりいっそう愛おしむためのアイテムを紹介します。
タイマグラで生まれる桶 その2
奥畑さんが接着剤ではなく、竹釘を使う理由。そこには、環境的や使い手の健康への配慮もあるかもしれないが。奥畑さんの木への深い愛情が接着剤を遠ざけたのかもしれない。
「桶づくりは極力、木を無駄にしなくて済む」
奥畑さんは桶の良さについて、こう語ったことがある。
日本には、桶のほかに曲げものと呼ばれる技術も存在する。熱で一枚の板をくるんと曲げて、輪をこしらえ、底板をはめて入れ物とする技術である。その特徴は、板材の幅、長さがそのまま、完成形の大きさとなることだ。また、曲げて使うため、品質に優れた無節の柾目板が必要で、大きなものを作るには、かなりの良材が必要になってくる。余談ではあるが、大館の曲げわっぱが隆盛を誇ったのは、天然秋田杉の良材がたくさんあったからで、秋田杉が少なくなってきている現在、どのように良材を確保するか、曲げわっぱ製作の現場は頭を悩ましているという。
一方の桶は先に述べたように小割りした側板を、つなぎ合わせることで形を作っていく。そのため、もちろん強度的な部分で限度もあるだろうが、たとえ小さな側板であっても、たくさんつなぎ合わせれば大きな桶を作ることができる。つまり、手桶などの小さなものから、日本酒や味噌の仕込み桶や風呂桶など、大きなものまで、自在に製作できるというのが桶の特徴である。そして、この特徴は、言い換えれば、木を無駄にせず、巧みに使うということにもなる。もちろん、曲げわっぱが木を無駄にするというわけではないが、桶づくりほど柔軟に部材を使い回すことは難しいと言えるだろう。
こうした桶づくりの特徴をとても大切にしているのが奥畑さんだ。桶となる材料は、まず天日にさらし、無駄な水分や油分を取り除いてから工房に運び込まれる。長い間、風雪にさらされた木は、変色し、そこに木の生命を見出すことは難しい。しかし、カンナをかけると一変する。カンナくずからは、生々しいほどの木の香が立ち上る。この香りを指し、「これ、ええ匂いでしょう。カンナをかけると木が生きかえる。やっぱり、木はずっと生きている」と奥畑さんは笑う。
たぶん、この生きかえった木に接着剤を使いたくない、というのが奥畑さんの率直な気持ちなのだろう。そして、こうした木への愛情が、奥畑さんの仕事の本質を成す部分なのかもしれない。
 現在、奥畑さんは、木の暮らしを愛する人たちの思いに応えるようにして桶を作っている。基本的には受注生産。子供が生まれるから産湯桶が欲しいと注文には生まれ来る赤ちゃんの顔を想像しながら、あるいは、新居を建てるのでどうしてもお風呂を桶にしたいという注文に家族で背中を流しあう姿を想像しながら、そして、自身の木への思いを確かめるように、木の香りが漂う工房でカンナを握っている。

 こうしてタイマグラで桶を製作する奥畑さんと出会ったことがきっかけとなり、僕の暮らしのなかにも桶がやって来た。選んだのは、三合用のおひつ。素材は杉。タガは竹か銅のものあり、悩んだが、少し無骨な銅のものとした。
いろいろな桶のなかでもおひつを選んだのは、「おひつに移し替えたご飯は冷めても美味しいような気がするなあ」と笑う奥畑さんの言葉を実感してみたいと思ったからだ。
そして、実際に試してみた感想は、ご飯の表面がつややかになり、舌触りの良さが増した。何よりも杉の香りの良さが加わる。何度も使っていくと、ご飯を口にしたときに鼻の前をふんわりと通り過ぎる杉に香りにも慣れてしまうのだが、ふとしたときにふっと香り、木が暮らしのそばにある心地よさを伝えてくれる。
それは、僕のせわしない日常の中で、タイマグラの清浄な大気と、そのなかで木に向かい合う奥畑さんの姿を思い起こす瞬間でもある。
南部桶正のHPはこちら http://homepage2.nifty.com/chi-ma/okemasa%20page/top.html
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暮らしの手ざわり
筆者プロフィール 奥山淳志(おくやまあつし) 写真家 1972年生まれ。東京で出版社に勤務した後、宮沢賢治の童話や詩の舞台にあこがれ、1998年、岩手県雫石町に移住。 現在は出版物、広告等の撮影をするほか、「宮沢賢治」や「岩手の風土」をテーマに撮影、取材を行っている。著書「いわて旅街道」「手のひらの仕事」(共に岩手日報社)、他
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vol.4 日々の道具、その意味。
vol.3 野原の小さなできごと
vol.2 炭を焼く人
vol.1 木の紙 経木
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